二十九、三十
前に進め 前に進め
不規則な生活リズムで
クリープハイプの名曲、二十九、三十。
銀杏BOYZもカバーをしている。
私の大事な友達は、音楽だけが味方だと言っていた。その子が今まで聞いた音楽で一番好きな曲だと言っていた。
私も、大事な曲だとは口が裂けても言えなかった。私も好きだとは伝えたけど、大事な曲だとは言えなかった。
その子の大事を壊してしまう気がしたから。
この曲をなんでもない日の帰り道に再生して、泣けてきてしまうような人とは友達になれるだろうなと思う。
その友達もそんな子だ。
友達と明るく喋って、お酒を飲んで楽しい思いをして、陽キャラのふりをしても結局私はここに戻ってきてしまうのだ。
私は陽キャラと陰キャラの分類に分けられないような人間なんだ。わからない奴には分からないだろうけど。
誰かがきっと見てるからなんて言葉を信じられなかった時の私を救ってくれた曲だった。
頑張っても頑張っても自分の意思ではどうしようもないことや、友達同士のいざこざの真ん中、ずっと好きだった友達のことを嫌いになってしまったことも
全てをこの歌が肯定して、一緒に歩いてくれた。
ここで話しても分かんないだろうから、吐き出させてほしい。ここしかないんだ。
大事な友達(Cと呼ぶ)には好きなバンドがいた。
そのバンドのボーカルの人が好きだった。
ファンとかそういうのじゃなくて、人間として、恋をしていた。ずっとそのバンドが好きで、何度も物販に行って喋れるようになっていた。人間不信なその子が本当に好きになったそのバンドのボーカル。歌で、言葉でCのことを救ってくれた。泣いたり笑ったりしてそのバンドのライブを観ている彼女は美しくて、一緒に観れた時は心底嬉しかった。
少しして、もう一人私とCの共通の友達、Bがそのバンドのライブに行くようになった。私はそのバンドは好きだったけど全然本命じゃなかったから対バンが良くないと観なかったけど、Bは違った。そのバンドのライブにいつも行っていた。Cといるから、そのバンドマンとも仲良くなっていた。Cは悲しく思っていた。でもそれを絶対に態度に出さなかった。優しくて冷たい子だった。
Bはいつも、Cの好きなことを真似するのに、自分を持ってると勘違いしてる。
嫌いなことまで一緒にした。前にあるバンドのことをCが好きじゃないと言った瞬間、メルカリでラババンとタオルを売っていた。
なんだか悲しかった。
同じバンドを好きになるのは構わないが、自分の意思はないのか?というレベルなのだ。
いつも大好きを取られてしまうCは、心底悲しかったと思う。
Bは同じようにして、その好きな人のことも好きになってしまった。
Cが好きな人と同じ音楽を聴けていて嬉しいと言っていたのを知っている。そしたらそれを真似して聴き始めた。それでそのバンドマンと良いよねって話しているのだ。
全然おかしいでしょ。それ。
ある日、その3人で飲みに行こうという話があったと聞いた。
ここは省くが、事情があってそのバンドマンはBと2人で飲みに行くことになった。待ち合わせは深夜の下北沢。朝まで飲もうと言っていたらしい。
そこまでの話を聞いても憤りを感じた。
結果、2人は
もう言わなくても分かると思うけど。
そういうことです。
BからCの好きな人とそうなってしまったという旨の相談を受けて全てを知った。あなたならわかってくれると思って話したと言われた。分かんねえよそんなの。分かるわけないじゃん。
なんでって、その時Cから2人で飲みに行くことになったらしいんだって話を聞いてたんだもん。
その時のCの気持ちを考えたら死にたくなる。私に出来ることなんて、BとCにお互いのことを黙っていることくらいだった。
ずっと今まで言えなかった。
これからも言わない。BとCはまだ友達やってるし、私は私でその2人の友達やってるし。
2人も私も、そのバンドのライブにも相変わらず行ってるよ。
もしも生まれ変わったならいっそ家電にでもなって、空気清浄機とかなら、楽してやっていけそうだな。
何も言えずに黙ったまま空気を読んだフリをして、遠くから見てるだけの俺みたいだし。
私みたいだし。